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2005.03.18

書評 『THE WRONG GOODBYE』 矢作俊彦

THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイTHE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ
矢作 俊彦

角川書店 2004-09-10
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 磨き上げられた言葉たちが紡ぎあげる、見事なハードボイルド探偵小説だった。単語ひとつひとつに対する作者の拘りは尋常じゃない。
 レトリックのひとつひとつが、適度なアフォリズムを伴って、硫化して黒ずんだ渋く輝く銀のような味わいを持った極上の探偵小説だ。

 これぞ本物と思わせる雰囲気もまたすばらしい。
 日本人作家の手による日本国内を舞台にした作品で、これだけ本家アメリカ的な雰囲気を持ったハードボイルド探偵小説を、ぼくは今まで読んだことがない。
 国内を舞台に、これだけのハードボイルド探偵小説を書ける作家は、この人をおいていないのではとまで思わせてしまう。いくら横浜と横須賀を舞台に米軍を絡めても、凡百の作家は逆立ちしても無理だろう。

 近年の日本人作家のハードボイルドを見渡すと、真保裕一の『ボーダーライン』が最もアメリカ的な雰囲気を持った探偵小説だったように思うが、この物語はそれを軽く凌駕している。しかも舞台は日本だ。
 日本のハードボイルドと言えば、暗くジメジメした印象の作品が多い。
 しかし、この物語を覆うのは、アメリカのどちらかと言えば西海岸的な渇いた雰囲気だ。それでいて、得られる読後感は物悲しい。
 チャンドラーの『長いお別れ』へのオマージュなのだから当然なのだが、そう簡単に作って燻り出せるモノではない。凄いことだと思う。

 キザだとか、気取っているとか、無用な薀蓄だとか、先入観たっぷりのマイナスイメージを持って読み始めたのだが、それらはほどよくマイルドになり、心地よくぼくを満たしてくれた。
 カタカナが多く、肌が合わない人もいるかも知れない。でも、目指した到達点に達するためにはどうしても必要だったと、ぼくは納得している。

 ベトナム戦争に拘るのも、いかにも作者らしい気がした。
 残念ながら、ぼくは熱心な矢作読者ではないので、背景はうまく解説できないが、作者には70年代の匂いがプンプンする。それは変わらない。

 物語の謎解きも、探偵小説をインタビュー小説と読んではばからない、作者らしい展開で唸るばかり。当然、会話もまたすばらしい。
 しかし、才気ほとばしり過ぎたのか、若干物語を広げすぎた感は否めない。
 新しい展開を新しい登場人物の出現に頼るのではく、登場人物を絞って役割分担を整理したらもっとよくなったような気がしている。
 プロットが複雑なのは良いのだが、おかげで散漫な印象を残してしまったのが、残念だった。
 でも、そんなことは枝葉末節なこと。チャンドラーの『長いお別れ』へのオマージュを明言するに足る、ハードボイルドの傑作だと思う。
 堪能させてもらった。

 とりあえず、殴り書き書評なので、あとから修正するかも知れません。

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