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2005.03.10

書評 『神はサイコロを振らない』 大石英司

4120035948神はサイコロを振らない
大石 英司

中央公論新社 2004-12
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 今更だけど、「神はサイコロを振らない」とは、アインシュタインが量子力学的な不確定性を揶揄して言った言葉で、自然界は偶然に左右されないというような意味のこと。つまり…。

 1994年8月15日に乗員乗客68人を乗せたまま消息を絶った旅客機が、10年後の2004年8月15日、当時そのままに時空を超えて還ってきてしまう。しかも、戻ってきた乗員乗客は三日後には再び消えてしまう運命にあるという。
 この神が与えた奇跡の四日間に繰り広げられる悲喜交々を描く、感動のハートウォーミングストーリィ。

 20世紀から21世紀にかけての前後10年間のクロニクルでもあるわけだが、5歳から老人までの多種多彩な乗員乗客の人生を通して、21世紀を生きるぼくらに与えられた黙示録と読むこともできる。
 人間賛歌というか、性善説的な人間の捉え方にとても好感が持てる。例え過剰に過ぎるとしても、人生と人間に対して肯定的だからこそ、世の中のあらゆる事象に対して苦言が吐けるのかもしれない。

 人物の配置は、今現在の大石さんを映していてとても興味深い。
 与党の幹事長あり、コミケに通いつめるオタクな婦人警官(!)あり、立候補を目指す自治官僚あり、プロ市民ありのごった煮状態。
 オタクといえば、お得意の航空機のシーンはさすがの臨場感だ。
 それぞれに見せ場を与え(プロ市民にまで見せ場を用意しているサービス精神にニヤリ)、人生の断面に光を与えようとする姿勢がすばらしい。

 最初ページをめくって、あまりの登場人物の多さに危惧してしまったのだが、杞憂に終わったようだ。プロの作家に対してあまりと言えばあまりの杞憂か。
 物語全体が美しく構成され、それぞれに凝縮された10年を余すところなく描ききっている。
 祝迫一家の航空機でのランデブー、富士登山中に突然消えてしまうシーン、すべてを呑み込んだ結婚式のシーン、などなど。すべてがこの最後のシーンに向かって高められてあるから、最後半部は涙なしでは読めないシーンが連続する。押し付けがましくなく、自然に流れる感動シーン。若干の甘さは、気にしないように…。

 神はサイコロを振らない、と言いながらも、神がちょっとだけ悪戯心を起こしたようなこの物語を読むと、アメリカでひとつのジャンルとなっているクリスマス・ストーリィという言葉を思い出す。
 クリスマス・ストーリィとは、クリスマスに起こる奇跡の物語を指す。子供が登場するのが条件だとか。すぐに思い浮かぶのは『クリスマスに少女は還る』とか『消えた少年たち』(上・下)とか。
 「日本だから、さしずめお盆ストーリィ」と評したのは佐々木譲さんだが、まさにそんな物語だった。
 心温まる、感動の物語。


 聖月さんにトラックバックをもらっているので、返しておこうかな。書いたよ、ということで。

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 旅歌さんの「Good Day to Die」の欄外にあるちょっとした感想記事が気になって手に取った本書である。それ以外は全然情報なし。どんな本なのかも深く考え... [続きを読む]

受信: 2005.03.11 16:56

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