« またもや新潟で大地震、原発は大丈夫か? | トップページ | FF7のポーションがAmazonで »

2007.07.19

書評 『新聞社-破綻したビジネスモデル』 河内孝

4106102056新聞社―破綻したビジネスモデル
河内 孝
新潮社 2007-03

by G-Tools

 最近放送された「たかじんのそこまで言って委員会」で、勝谷誠彦がこの本をかざして「新聞は年間2,200万本の木を使っている」とおっしゃっていた。実はよく見えなかったのだが、「新聞社の元役員の方が書いたんだから、本当だろう」とも言っていたので、間違いないと思う。

 本書の著者である河内孝は、毎日新聞の常務まで務めた方だ。読んでいただくとわかるが、読売&朝日の2極構造を打破するべく、毎日&産経&東京の業務提携を画策して敗れ去り、2006年に役員を辞任した。かといって、暴露本ではない。ご本人も本書の中で、役員として知りえた文書や数字はベースにしないと言っておられる。

 だから、一言で言えば「甘い」。新聞業界の末席を汚すものとして読んでおかねば、と思ったわけだが、大半は知識の片隅にあるものばかり。押し紙の問題ひとつとっても、もっと具体的な事象を知っているはずだ。役員として知りえた数字をベースにしないわけだから、こういう書き方になるんだろうが、これについてはかなりがっかりした。

 他にもいろいろと不満がある。が、企業の中で役員にまでなられた方が、自分の属していた、それも社会的な影響の大きい業界についてすべてをぶちまけるには、命を賭けるくらいの覚悟が必要かも知れない。そう考えれば、ここまでよくぞ書いたという気持ちも湧き上がってくる。

 しかし、それと新聞業界の欺瞞は別物だ。有体に言えば、今の新聞業界は詐欺体質なのだ。残念ながら、詐欺の本質である押し紙の比率についても、本書では明らかにしてはくれない。取り上げられている数字が10%だったり30%だったり40%だったりとはっきりしないのだ。手順を踏めばすぐに明白になる数字を、意識的にぼやかそうとしているように思われてならない。

 自分の印象を含めて押し紙の比率を考えるなら、本書で取り上げている大きめの数字である30%程度はあるのではないかと思う。各店によって差はあるだろうが、最低でも10%はくだらない。新聞店に10%から30%もの新聞を押し付けておいてそれを発行部数に換算する。1,000万部発行などと言っていても、実際は700万部程度が良いところなのかも知れないのだ。300万部が無駄に生産されているとしたら、相当なロスだ。当然、これらのコストは新聞価格に反映される。

 次いで被害を蒙るのは、折込チラシを配布する広告主だ。たとえば、持ち部数を4,000枚と公表している販売店でも、実際に新聞を配達しているお宅は3,000軒程度かも知れない。残りの1,000枚は捨てられてしまう。支払われた1,000枚分の折込広告料は労せずして販売店が懐に入れる。

 以前、神奈川県のとある企業が、不透明な各店枚数について訴訟を検討したことがあった。しかし、証拠集めや訴訟にかかる時間と費用その他を勘案して断念してしまった。相当に研究したらしいが、やり口が巧妙で、攻め口を見つけられなかったのだそうだ。新聞店主を見方につけなければ成立しない。

 このような詐欺行為だけでなく、本書では、なぜマスコミが第三権力と呼ばれるようになったかを克明に記している。言い換えれば、新聞社によるマスコミ支配の構図である。大新聞社がテレビ局を作り、各県の新聞を系列化し、巨大化してゆく。

 本書によれば、新聞社経営が行き詰まることがあっても、テレビ局が金を稼いでくれると高を括っていて、新聞経営者は安閑としているのだそうだ。しかし、最近のTVCMでは前にも増して「公共広告」を見るようになった。理由は簡単で、CMが集まらなくなってきているのだ。2007年7月第一週のゴールデンタイムの視聴率が9%を超えた番組が全局でひとつもなかった、という報道もあった。

 HDレコーダーの普及とか、インターネットに取られているとか、ゲームをやっているからテレビを見なくなったとか、単純に言えることではないと思う。構造的に変革を迫られる時期に差し掛かっている。このままいくと、再販の特殊指定問題も含めて、新聞は早々に立ち行かなくなる。集金マシーンだったテレビ局にも陰りが見え始めている。早く手を打たなくてはならないのだ。

 しかし、旧態依然とした新聞経営者たちは動かない。いや、知っていても動かないのかも知れない。作者がYahoo!の井上社長に言われた言葉が印象的だ。「世界中、日本中の毎日新聞支局のゴミ箱に捨ててある原稿の書き損じを全部下さい。あなた方は私達ユーザーが求めるニュースが全然分かっていないのですから」

 販売の問題だけでなく、こういった報道のあり方まで問われ始めている。欲しい情報はインターネットを調べれば瞬時に手に入る。今や、新聞はチラシを運ぶ入れ物とまで言う人がいる。物事の決定のディテールに「透明性」を求めるようになった社会に、まったく対応できていない。じゃあ、どうすれば良いのか。興味ある方は是非読んで欲しい。

 こんな書評もあった-「ガ島通信」

では産経はどうか。夕刊もなく、事実上、全国紙ではなく首都圏新聞になりつつあります。

 念のため指摘しておきます。産経新聞は首都圏新聞じゃないですよ。元々が関西で、大阪や奈良などシェア20%を超えている地域もあります。

|

書評」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/63389/15807001

この記事へのトラックバック一覧です: 書評 『新聞社-破綻したビジネスモデル』 河内孝:

» 新聞社 破綻したビジネスモデル/河内孝 [仮想本棚&電脳日記]
新聞社 破綻したビジネスモデル/河内孝 「新聞という産業は今、様々な危機に直面している。」 今頃になってこんなことを書いているようだからこそ新聞業界はだめなのです。 かなり以前から危ない状況が見えていたのに楽観的すぎたのです。 たとえば「押し紙」についていえ..... [続きを読む]

受信: 2007.07.22 19:44

コメント

>今や、新聞はチラシを運ぶ入れ物とまで言う人がいる

確かに、それが楽しみだったりしますね。あまりに多いと鬱陶しいのも確かなんですが。

新聞だけにとどまらず、マスコミ全体が駄目になってきているということなのかもしれませんね(だからといってネットが成熟しているわけでもないのが、また辛いわけですけれど)。

投稿: ムムリク | 2007.07.19 10:04

新聞はネットにさえつながれば、どこでも読める。が、チラシは新聞を取らない限り見ることができない、という論法です。Googleニュースなどは、全国610の新聞サイトを網羅して、好みのニュースを配信しているそうですね。今日もぼくのGoogleニュースに「八重山毎日新聞」っていうのが引っかかって、結構楽しく読ませてもらいました。こういう機会はネットならではですよね。もちろん、細かいニュースはまた別なのかもしれませんが。

投稿: takefour@旅歌 | 2007.07.19 12:32

コメントを書く