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2007.09.19

書評 『犯人に告ぐ』 雫井脩介

犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫)犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫)

双葉社 2007-09-13
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 2004年に刊行され、ミステリ好きの間で話題になった作品。その年の「このミス」で8位にランクインした。2007年には豊川悦司主演で映画化され、10月に公開される。気にはなっていたが未読だった。映画化に合わせて文庫化されたので、読むことができた初めての雫井脩介作品。

 初めて読んだ雫井作品は、横浜を舞台にした警察小説だった。主人公は警視の巻島史彦。6年前に起こった幼児誘拐殺人事件で大失態を演じ、神奈川県西部に左遷されている。巻島の大失態を境に、神奈川県警は不祥事が噴出し権威は地に堕ちていた。そんなとき、川崎で男児連続殺人事件が起こる。しかし、事件は解決の糸口さえ見つからない。

 川崎の事件発生から1年が過ぎたあと、着任した県警本部長がテレビで公開捜査を行うという突飛なアイディアを出す。これに抜擢されたのが、飛ばされていた巻島史彦だった。ダンディな巻島は、テレビで犯人に呼びかけ、一大センセーションを巻き起こす。果たして、犯人は炙り出されるのか……。

 一読して、作者のファンになった。ともかく、ストーリィ作りが抜群にうまい。現在と過去に起こった二つの凶悪事件を絡ませて、重厚な物語を描き出している。ひとつの事件でテレビを使った公開捜査を行うのだが、これだけでなく、事件の扱い方が過去に読んだことのないような描き方と構成で描かれ、何度も虚を衝かれた。

 ミステリ好きな方なら、主人公の巻島史彦警視の孫に目がいくはずだ。年格好からして、この孫が後半大きな展開をもたらすだろうことは容易に予測がつく。ぼくも、ある予断を持って読んだ。しかし、これが見事に裏切られる。しかし、作者が選んだ展開がまた良かった。若干盛り上がりには欠けるが、ほろ苦くて胸の痛むラストにつながる。

 ラストまで読んで、ちょっと大げさだがローレンス・ブロックの名作『八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)』を思い出していた。なかなか言えなかった一言。過去の間違った自分を認める作業は難しい。涙と共に吐かれたマット・スカダーの言葉が巻島史彦の言葉と重なった。そういう意味から言えば、本書は警察を舞台にした人間の成長ドラマでもある。

 人物造型はどうだろう。食えない県警本部長やキャリアの上司、巻島を支える老刑事が印象に残った。しかし、この3人もどこかステレオタイプで、強烈な印象はない。最も残念なのは、巻島本人がどうもしっくりとこないことだ。工夫を凝らしているのだが、どうしても朧な像しか結ばない。今後の課題だろうか。

 それと犯人だ。これだけの大事件を起こした犯人なのに、あまりにあっけなくはないか。動機は何なのか。もし、本当に快楽殺人なら、毎月のように犯行に及んでいた犯人が、1年も我慢できるはずがない。このあたりの犯人像にもっと力を入れるべきだった。対極を描けば、正義はもっと重厚になるのだ。伏線は張っている。しかし、納得できない。全体が劇画チックに過ぎるのも不満だろうか。

 読了後、こうして考えれば不満は多々ある。物語全体を見れば中だるみもあるし、現実では起こりえない展開も多く、また小説的妙味を盛り込み過ぎて焦点がぼやけてしまった感は否めない。しかし、それを補って余りあるおもしろさなのは間違いない。好きなタイプの作家なので、追いかけてみたくなった。著作もまだ少ないみたいだしね。

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